犬アトピー性皮膚炎の新薬「アポキル」への期待は大きい
10/11の譲渡の際、前飼い主から小さな錠剤を数錠もらいました。
その時は「何の薬かわからない」と言われたのですが、その翌日(10/12)、動物病院の健診で
すぐに投薬を止めるように
と言われて飲ませないでいたところ、動画のように激しく体を掻くようになりました
調べたところ、その薬は「アポキル」という痒みをおさえる薬でした。
あまりに激しく掻くので、試しに10/20の朝8時に「アポキル」を1錠飲ませてみたところ、昼頃にピタリと掻かなくなりました。すごい!
効果は丸一日続き、その後また掻くようになりました。
つまり「アポキル」がよく効いたのです。これは嬉しかった。
アポキルとは
犬アトピーに対する新薬
さて、その「アポキル」とはどんな薬でしょう?
「アポキル」(一般名:オクラシチニブ)は2016年に認可された
- 犬アトピー性皮膚炎(CAD)治療剤
- 犬アレルギー性皮膚炎抗掻痒剤
です。まだ承認から6年という新しい薬ですね。
効く仕組み
ちょっと専門的になりますが、「アポキル」がどのように痒みに効くかを調べてみました。
アトピー性皮膚炎の炎症部位では、T細胞などから「インターロイキン31」(IL-31)というサイトカインが分泌されます。
IL-31が細胞膜上の受容体と結合し、受容体にくっついている「ヤヌスカイネース」(Janus Kinase:JAK)というリン酸化酵素を活性化させることによって痒みが引き起こされます。
つまり「痒くせよ」という「手紙」(IL-31)が「ポスト」(受容体)に投函されると、それを「受け取った人」(JAK)が元気になって痒みを発生させる。
「アポキル」は受け取った人を羽交い締めにして動きを止めてしまう、という感じ?
アポキルは「分子標的薬」の1つで、このJAKの働きを特異的に止めることによって痒みを止めてしまいます。
要するに、ステロイドのようにあっちこっちに作用するのではなく、痒みを引き起こす部位に「超ピンポイント」で作用するということです。
用量
用量(飲ませる量)は0.4mg/1kg体重なので、体重9kg強のベクは丁度「3.6mg錠剤」と「5.4mg錠剤」の分かれ目。
実際は3.6mgを処方されていました。
つまり、耐性などで効きが悪くなってきたら、ちょっと大盛りの5.4mgに変更することも可能なのだと思います。
まだ伸び代があるということで少し安心しました。
「アポキル」は長期投与して大丈夫か?
アトピーは基本的に治らない病気
アトピー性皮膚炎は、調べると
生後6ヶ月〜3歳くらいの若い頃から症状が出始め、年齢を重ねるごとに痒みはひどくなる傾向にあります。
ベッツアニマルクリニック瀬戸
アトピー性皮膚炎は生涯続く症状であり、完治を望むことは難しいかもしれません
松波動物病院
ということでした
そんな深刻な病気だったんだ。知らなかったです。
アポキルではアトピーは治らない
そこで大問題になるのが「アポキル」は
- いずれやめられる(「アポキル」によってアトピー性皮膚炎が治る)
- 長年(もしかしたら一生)飲み続けなくてはいけない
のどちらかということです。
投与を即刻中止せよ
と言ったジューイA先生は長期間投与に反対で
最長2ヶ月間で投与は止める
という方針らしく、長期間投与している前動物病院に腹を立てているようでした。
しかし調べたところ
通常、投薬開始2週間は1日2回(朝・晩)で投与し、3週目からは1日1回に減薬します。
ベッツアニマルクリニック瀬戸
4ヶ月間投与したら一度休薬し、かゆみの再発がないかの確認をおこなうことが理想とされていますが、多くの場合が再燃します。
とありました。
つまり、4ヶ月くらいで投薬を打ち切るのが理想だけど、アトピーが治ったわけではないので、多くの場合痒みが再発するとのこと。
実際ベクは「アポキル」投与を止めたら激しい痒みが再発してしまいました。
長期投与がいけないという根拠は?
なんでジューイA先生は投与を止めさせたのでしょう?
長期投与を否定する根拠の1つが、アポキルの添付文章に書かれている
オクラシチニブとして体重1kgあたり0.4mgを、1日2回、最長14日間経口投与する。
さらに継続する場合には1日1回投与する。
ただし、投与期間は1年を超えないこと。
だと思います。
えーーー、激しい痒みが続いていても1年経ったら投与は止めなくてはいけないの??
そんな酷な。
しかし、これに対してはこんな記事もありました。
1年を超えると何か強い副作用が起きるためではなく、承認時の安全性試験の結果が1年であったためです。
新宿御苑前どうぶつ病院
そして現在まで、オクラシチニブ長期投与により特定の疾患が発生することや、どこかの臓器が障害を受けるといった報告はありません。
実際、アポキルの添付文章の作成日は承認時の2016年3月でした。
今はそれから6年以上経っています。(改訂版はないのかな?)
さらに「アポキル」の長期投与でガン(癌)が出来やすくなるという話もあるようです。
これもアポキルの添付文章の中に
本剤は感染症に対する感受性を高め、 腫瘍 (潜在性の腫瘍を含む)を悪化させる可能性があるため、慎重に投与し、継続的に観察すること。
がその出所だと思います。
「アポキル」は一種の免疫抑制剤なので、ガン細胞を殺す免疫機構を弱めてしまうためにガンが起きやすくなるという理由のようです。
しかしこれも、その後の研究である程度否定されています。
24ヶ月以上オクラシチニブ(アポキル)を投与した犬とそうでない犬を比較した結果、ガンの発生率に有意差はなかった。
Age- and breed-matched retrospective cohort study ofmalignancies and benign skin masses in 660 dogs with allergic dermatitis treated long-term with versus without oclacitinib
でもこれも2〜3年くらいのテストなので、その後さらなる長期間の投与については保障出来ないようです。
一体ベクは既にどれくらい「アポキル」を飲んでいるのでしょう? → このあと衝撃の事実が。
わかっている副作用は
安全性の高い薬だといっても、副作用はもちろんあります。
「アポキル」の臨床試験で115〜672日投与時に5%以上の犬に認められた副作用としては
- 尿路感染症・膀胱炎:11.3%
- 嘔吐:10.1%
- 外耳炎:9.3%
- 膿皮症:9.3%
- 下痢:6.1%
(アポキルの添付文章より)
内服薬ですから肝臓への影響もあるため、定期的な検診(血液検査)などはかかせません。
けっこう高価な薬
長期投与では副作用だけではなく、医療費も心配です。
「アポキル」はネット通販でも売っていました。
それによると、
3.6mg製剤1箱で6,000円/20錠(300円/錠)。3箱だと16,200円/60錠(270円/錠)
5.4mg製剤1箱で6,500円/20錠(325円/錠)。3箱だと17,500円/60錠(292円/錠)
(ぽちたま薬局
1錠300円!
ひーーー、高い!
動物病院では薬価はもっと安いかも知れませんが、診察料や処方料がかかるので1万円/月程度かかりそうです。
これが一生続くのか…
いずれジェネリックが出ればいいのですが。
錠剤を二分割することは認められているようなので、5.4mgを半分に割って(2.7mg)飲ませればだいぶ助かるのですが、それで薬の効果が出るかどうか。
アトピー性皮膚炎の治療
犬のアトピーに「アポキル」がよく効くことはわかりました。
でももっと他にも症状を抑える方法があるはず、と思って調べてみました。
薬物療法
「アポキル」以外では「ステロイド(経口、外用)」「経口シクロスポリン」が使われてきましたが、それぞれ一長一短があります。
ステロイドはここでも書かれているように「副作用が怖い」という飼い主の意識が利用を阻んでいるという側面もあるようです。
きちんと用法用量をコントロールすれば、低価格で高い効果を期待出来るとのこと。
体重10kgの犬で「アポキル(5.4mg:300円/錠)」と経口ステロイド剤の「プレドニゾロン(5mg:50円/錠)」で医療費を比較すると、処方料が100円/錠として年間では
・アポキル:146,000円(毎日1錠)
・プレドニゾロン:15,600円(週2回1錠)
という試算がありました。(Small Animal Dermatology 43号(2017年1月号) )
アレルゲンの除去
これが出来ればいちばんいいのですが、実際は難しいようです。
アトピー性皮膚炎:アレルゲンは空気中の花粉、カビ、イエダニ、動物のフケなど
アレルギー性皮膚炎:アレルゲンは食物、ノミなど
は別の病気。
それぞれ、原因や治療方法も違うのですが、両方を併発している場合も多いとのこと。
アトピー性皮膚炎のアレルゲンを完全に除去するのは無理だと思います。
また食物アレルギーも
食物アレルギーを診断する唯一の有効な方法は、ペットに8~12週間以上、低刺激性食または除去食を投与する方法です。
松波動物病院
とのこと。
鶏肉、牛肉、魚など、なにが原因かわかるまで、それぞれ8〜12週間以上試すのはあまりにも酷で時間も手間もかかりすぎます。
さらに、この試験中は薬が使えないのです。
減感作療法
アレルギーの原因となっているアレルゲンを少量から段階的に増量して接種し、アレルギー症状を抑えてゆく療法です。
薬物療法などの対症療法と違い、根治を期待出来る唯一の治療法(原因療法)とされているそうです。
これが出来ないか、動物病院で相談したいと思いました。
スキンケア
シャンプーで皮膚をきれいにし、その後保湿する方法です。
シャンプー療法と保湿ケアは外部アレルゲンを取り除き、皮膚を保護するという意味から、非常に有用です。犬アトピー性皮膚炎におけるシャンプーの頻度は1週間に1回を目安にすることが国際的なガイドラインに示されています。
ベッツアニマルクリニック瀬戸
これはいずれにせよちゃんとやりたいです。
シャンプーは前飼い主が前動物病院で買っていた「薬用酢酸クロルヘキシジンシャンプー」をネットで購入しました。
皮膚の保護
皮膚炎の痒みは
痒い → 掻く → 炎症悪化 → さらに痒くなる → 掻く → さらに炎症悪化
という悪循環で悪化して行きます。
なので「掻く」行為を止めることは、症状を抑えるためにはとても大切。
即効性があり確実に痒みを止めることが出来る「アポキル」はそうした意味でも重要だと考えられます。
また、ベクが引き取る前から服を着ていたのも、直接掻くことを防ぐためだったのかも知れません。
元の動物病院に行ってみよう!
以上、いろいろ犬アトピー性皮膚炎などについて調べた結果
近所の他の動物病院にも相談してみよう
という結論になりました。
そこで検査などをしてもらって…と思った時、それならば今までのかかりつけの動物病院に行くのが一番良いことに気がつきました。
かかりつけ動物病院は車で往復3時間ほどかかります。
でもそこで今までの経緯を聴くのがなにより大切だと思ったのでした。